ABCyosouのブログ

宇宙際タイヒミューラー理論の解読にチャレンジします

宇宙際タイヒミューラー理論の論文を解読しよう(3)

宇宙際タイヒミューラー理論の準備論文の内容に入門する必要があるということでしたが、それは、遠アーベル幾何学に入門する必要があるということです。そのテーマのひとつに、

与えられた数体の絶対ガロア群から数体を復元する

というものがあるらしいです。数体というのは有理数\mathbb{Q}の有限次拡大のことでした。数体の絶対ガロア群(=対称性の情報)がもともとの数体の情報を十分に持っていれば、もともとの数体がなんであったのかを、ガロア群を設計図として復元できるのではないかということですね。星裕一郎先生の講演内容を纏めた資料「絶対ガロア群による数体の復元」を見ていくのが良さそうと思ったので、これの解読からチャレンジしましょう。

まず、この復元に関しては、「ノイキルヒ・内田の定理」という古典的定理が答えの一つを出しているとのことです。次が主張です。

\square \in  \{\circ, \bullet \}に対し, 大域体 F_\squareを考え, その分離閉包 \bar{F}_\squareを固定する. ガロア拡大F_\square \subset \bar{F}_\squareからその(絶対)ガロア G_\squareが定まる. \mathrm{Isom}(\bar{F}_\circ / F_\circ , \bar{F}_\bullet / F_\bullet)を体の図式F_\circ \subset \bar{F}_\circから体の図式 F_\bullet \subset \bar{F}_\bulletへの同型射の全体の集合であるとし, \mathrm{Isom}(G_\circ, G_\bullet)位相群 G_\bulletから位相群 G_\circへの同型射の全体の集合であるとする. (無限次ガロア理論で学習したように, 絶対ガロア群にはクルル位相が入っており, この位相で位相群になった.) このとき、以下の全単射がある:

 \mathrm{Isom}(\bar{F}_\circ / F_\circ , \bar{F}_\bullet / F_\bullet) \ni \phi \mapsto [ g \mapsto \phi g \phi^{-1} ] \in \mathrm{Isom}(G_\bullet, G_\circ)

以上がノイキルヒ・内田の定理というやつですね。この定理から次が分かります。

 F_\circ \cong F_\bullet \iff G_\circ \cong G_\bullet

確認しましょう。 F_\circ \cong F_\bulletとすると、この同型は、それらの分離閉包の間の同型に拡張されたことから、 \mathrm{Isom}(\bar{F}_\circ / F_\circ , \bar{F}_\bullet / F_\bullet) は空ではないことが分かります。ノイキルヒ・内田の定理の全単射を通して、\mathrm{Isom}(G_\bullet, G_\circ)も空でないことが分かり、G_\bullet,  G_\circ の間にも同型が存在することが分かります。逆も同様です。

これで、絶対ガロア群が異なる(同型でない)という情報から、もともとの大域体も異なるという情報が得られます。絶対ガロア群は大域体の不変量になっている(大域体を絶対ガロア群で分類できる)という言い方もできます。さらに、分類できてるだけでなく、絶対ガロア群を指定することで、それを絶対ガロア群とする大域体も一つに決まりますから、この不変量は「完全」ということになります。特に、数体は大域体です。

この現象を、「数体はその絶対ガロアを用いて復元可能」というように表現することがあります。しかし、「復元」といっても、この定理では、与えられた絶対ガロア群からそれを与える体(の拡大)の形を具体的に求めることは難しそうで、「復元」にもレベルがあることが推察されます。